「鼻から酸素吸入」は薬です ~後編~ 日本医科大学呼吸ケアクリニック

コラム

「鼻から酸素吸入」は薬です ~後編~


前回お話しました在宅酸素療法(HOT)について、詳しくご説明いたします。その名の通り、自宅では酸素供給装置(酸素濃縮器や液体酸素タンク)からチューブを通じて酸素を吸入し、運動のため外出する際は軽量の酸素ボンベを用いる治療が在宅酸素療法です。

治療の手順ですが、先ず主治医と相談して吸入する酸素の量や時間を決めます。目標は運動時の息切れの改善ですが、睡眠中についても呼吸活動の低下により低酸素血症となることから酸素吸入が必要であり、合わせて検討を行います。これにより酸素の処方箋を発行しますが、当然のことながら健康保険が適用されます。
適用基準は、動脈血酸素分圧が55mmHg以下(酸素飽和度が 88%以下)です。また、動脈血酸素分圧が55mmHg以上であっても60mmHg以下であり、かつ睡眠中や運動時に低酸素血症となる場合であれば適用となります。

薬が増えれば医療費、医療機器の維持費などの経済的負担が増え、ご家族への負担も増しますが、様々な社会保障制度を活用することができます。例えば、身体障害者福祉法で呼吸機能の障害認定を受けたり、特殊な難治性肺疾患が原因であった場合は公費負担医療の対象となります。また、介護保険の適応となるケースもあります。

HOTの患者さんは、酸素吸入が無くても歩けなかったり、倒れてしまったりするわけではありません。酸素は、上手に使用することでより良い呼吸状態を維持し、活力のある生活を送っていただくための、いわば『吸入する薬』なのです。

医師 日野 光紀

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