新型コロナウイルスと喘息
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年11月に中国湖北省武漢市付近で発生が初めて確認され、その後、瞬く間に世界的流行へと発展しました。世界保健機関(WHO)は2020年 3月11日にパンデミック、すなわち世界各地で同時多発的に感染症が人から人へと容易に伝染している状態にあると表明しました。日本においても感染経路がわからない感染者が急増し、4月7日に東京をはじめとする7都府県に緊急事態宣言が発令され、4月16日には適用地域が全国に拡大されました(図1・図2:News Digest, JX PRESSより転載. https://newsdigest.jp/pages/coronavirus/)。
COVID-19の典型的な症状・徴候として、発熱(87.9%)、咳(67.7%)、疲労(38.1%)、痰(33.4%)、息切れ (18.6%)、のどの痛み(13.9%)、頭痛(13.6%)、筋肉痛・関節痛(14.8%)、悪寒 (11.4%)が報告されています。また、無症候キャリアと呼ばれる症状のない感染者が存在することも知られています。
新型コロナウイルス感染者の80%は軽症で自然軽快するとされていますが、「基礎疾患」をもつ方は重症化の危険があります。この「基礎疾患」とは、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD 等),透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方を指します。
「喘息」は重症化の危険がある呼吸器疾患のひとつと考えられます。普段のコントロールをしっかりと行い気道を良い状態に整えておくことがウイルスを跳ね返すバリアとなり、重症化のリスクを下げることにつながります。どのように対処したらよいかを理解するとともに、体調不良を感じたら早めに受診するようにしましょう(Q&A:日本アレルギー学会HPより一部改変し転載)。
Q1. 喘息は重症化のリスク因子となりますか?
A1.ダニなどのアレルゲンの曝露、気候変動、ウイルス感染症は喘息増悪(発作)のリスク因子であることが知られています。ウイルス感染症では、風邪症状や気管支炎を生じる RSウイルス、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス等が喘息増悪に関連したウイルスであることが知られています。一般的なコロナウイルスでも感冒症状を引き起こすこと、また新型コロナウイルス感染症では肺炎を生じることから、喘息患者が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合も喘息増悪をきたし、それに伴って呼吸不全が重症化する危険性が考えられます。
Q2. 感染前にどのような対応が必要ですか?
A2.喘息の病態は、好酸球を主体とした気道の慢性炎症です。この気道炎症によって、気道平滑筋の収縮、気道の浮腫、気道分泌亢進等が生じています。この好酸球性気道炎症が存在する状態に、さらにウイルス感染による気管支炎が生じると、重症化するリスクが高くなると考えられます。したがって、根っこにある気道炎症をしっかり抑えることが重症化予防に大切です。吸入ステロイド薬を中心とした長期管理薬による日頃からのコントロールをしっかり行いましょう。
Q3. もし新型コロナウイルス感染症にかかってしまった場合、 喘息の治療はどうしたらよいでしょうか?
A3.一般的なウイルス感染症による喘息の急性増悪(発作)時では、 通常の発作時治療に準じて治療をしています。喘息治療を差し控えると重症化をきたす危険性が高いため、新型コロナウイルス感染症の時も、通常の安定期・発作時の喘息の治療に準じて治療を行います。
Q4. 注意するべき薬はなんですか?
A4.気管支収縮作用のあるβ遮断薬や、喘息発作の際に喀痰の排泄を止めてしまう中枢性鎮咳薬は使用しません。また、成人の5-10%に見られるアスピリン喘息では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用により急性増悪(発作)を誘発しますので、解熱鎮痛薬を使用する際にはアスピリン喘息の既往については必ず確認します。